子夜の読書倶楽部

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【5分の暇つぶし】赤と夏 2/3【短編小説】

 

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赤と夏 ナツと俺の生活 小説②


花火余韻が消え始めたころ、ナツは戻ってきた。

すこし驚く。

普通の人間は一回俺のもとを去ったら、

もう二度と来ない。

驚く余韻にも浸れないまま。俺は彼女に強引に、

抵抗する暇もなく連れていかれた。

今思い出せば、初めてナツの自分勝手さを感じた時だった。
 

祭りの屋台にあった水風船の様に色とりどりの

光が灯る大通りをナツに振り回されながら移動する。

そこに俺の意思はなかったが

その時間はなぜか心地よく感じた。

彼女が向かった先は簡素なビジネスホテルだった。

狭い部屋は思ったよりもきれいで、

ベッドと椅子が一つづつ。

簡素な部屋の雰囲気が派手なナツと

なぜか妙に合っていたのを覚えている。

俺はぽつんと置かれている古びた椅子の上に乗った。

ナツはぼふんとベッドに横たわった。

そのままナツはうつぶせになりながら少し話した。
 

ナツは最近、三年付き合った男に振られたと言った。

傷心を癒すために花火を見たかったので

わざわざ三駅離れたのこの夏祭りにきた。

そして、俺を見かけて一目ぼれしたそうだ。

「普段の私ならこんなことしないのに」といった。

枕に顔をうずめながらつぶやくナツに

俺はそうかとだけ答えた。

話はナツの一方的なまま、彼女の寝息が

聞こえ始めるのと同時に終わった。

俺はそのまま椅子の上で眠った。
 
 翌日の夜、ホテルから俺は彼女の家にいた。

彼女はコールセンターで仕事をしていた。

ナツの派手な雰囲気にそぐわないほど

ずいぶんと安っぽいアパートに彼女は住んでいた。

 

質素な部屋に俺とナツだけ。

「ここにずっといていいよ」

ナツはぼそっとつぶやいた。

俺はその言葉を受け入れた。
 

しばらく生活を共にしていると彼女の本当が見えてくる。

彼女は綺麗だった。それは生まれ持ったものであり、

生きてく上で身に着けたものだった。

そして、男癖も悪かった。

 

月に何回も違う男をこの部屋に招いた。

よくナツは知らない男たちと抱き合っていた。

それはナツのストレス発散行為であり、

自傷行為でもあった。

一方、ナツと俺は触れ合う事はなかった。

毎日の変化の中で変わらないものは

安アパートの部屋と俺とナツだけ。

俺たちはそれに満足していたのだった。

 

 四ヶ月経ち、俺は別の部屋に移された。

原因はナツの部屋を訪れた男が俺を指さし、

「あいつがずっと見てるのが気持ちわりぃ」

「気にしないで」

と彼女は言ったが男の拒絶は無くならなかった。

安アパートにある二部屋のうち、

物置として使われている部屋が俺の部屋になった。

雪が降り始めた十二月の事だった。